たゆたえど沈まず
11月13日パリで同時多発テロが起き百名以上の犠牲者が出ました。
その10日後、渦中のパリに入りました。毎秋パリに行く事は
ここ数年の楽しみになっており飛行機や宿の予約は2カ月ほど前にしていました。
事件後かなりの方がパリ行きを中止したようですが現地の友人から情報をもらい
一部の狂信者の行いに人生の予定を狂わされるのも癪なので決行しました。
23日の夕刻4時過ぎロワシ―に到着、既に日は西に傾き夕焼けが空を染めていました。
空港内は何時も通り、税関のチェックも僕等にはさほど厳しくは感じませんでした。
宿に向かうまでも何時ものパリと殆ど変らぬ空気が流れメトロ・バスも平常通りでした。
勿論リュパブリック広場や11区の辺りはまだ興奮が冷めていないようでしたが
その他の地区では朝夕の通勤通学、路上市場など事件前と変わらぬ生活ぶりでした。
今回の事件を現地の友人たちと話しながらISの考え方生き方とフランス人のそれが
あまりに対照的な事が一つの要因ではないかと思いました。
ワインを好きなだけ飲み、カロリーを気にしない美食・飽食、婚姻に関係のない恋愛
国家主席やローマ法王までを笑いの対象にしてしまう権利・・・、
人生は楽しむためにあると考えるこの国に戒律を守る事を生きがいにする人々が
共存する事はかなり難しい事なのかもしれません。
勿論そのことだけが今回の事件の引き金を引いたわけではありませんが
異文化が共存する難しさを感じます。
フランスは嘗て北アフリカをはじめ各地に植民地支配を広げた歴史があります。
その結果各地から沢山の移民を抱えることになり現在に至っています。
もともとフランスは建前上移民だけでなく外国人に広く門を開いています。
特にパリは人種の坩堝と言われメランジュされた文化は数々の名作を生んでいます。
前回ユーロが目指す国境なき素晴らしい世界の事を少し述べましたが
今回の様な事件がまた昔の様な壁を作る国に戻さないか心配です。
事実最近のヨーロッパ諸国では極右の台頭が目立ってきています。
せっかくメルケル首相が人道的立場に立って進めてきた移民受け入れも
それによって難しくなってきているようです。
世界がISの脅威に怯えて排他的な国づくりに戻ってしまったら彼らの思う壺です。
とはいえ目には目を歯には歯をといったアラブの考え通りシリアを空爆している
フランスをはじめとした各国も賢いとは言えません。
憎しみはさらなる憎しみを生むだけです。
パリの古い憲章に「たゆたえど沈まず」とあります。
今でも街のあちこちにラテン語で書かれたプレートを目にします。
パリ市民の間でこの言葉がまた囁かれるようになっています。
どんなに戦火で傷めつけられようともセーヌに浮かぶパリは
揺らぐ事はあってもけっして沈まない
そんな意味だと思います。
今巴里の人たちは出来るだけ平静を保つように心がけているようです。
ムスリムを排除したり怯えたりせずに事件前と変わらずに生きて行こうと考えています。
正に「たゆたえど沈まず」の精神だと思います。
アフガンの大地震、カリフォル二アでの福祉施設を狙ったテロ、タリバンの空港襲撃
世界は大きく病んでいるように思います。
他者の悲しみ苦しみを喜ぶのではなくて他者の喜びを喜べるような世界
そんな世界はどの様にしたら実現できるのか皆で考えなくてはと思います。
僕としては今のところ平和なこの国で生きられることに感謝しながら
日々祈るような気持ちで描いています。
どうか皆さんもお気持ち爽やかに笑顔で新しい年をお迎えください。
笠井正博