2009年10月28日

夏の展覧会も全て終え気が付けば十月も後半。見上げる夜空には見事な月が浮かび星たちも顔ぶれが変わってきました。今年も各地の個展に来てくださった皆さんありがとうございました。今はこれまでの仕事をどの様に展開していくかゆっくり考えているところです。

香道の世界では香りを感じることを「聞く」といいます。正確には「問うて聞く」と 言うそうです。この言い方は香り以外の世界でも通ずる事かもしれません。 しかし情報過多の現代において自分の心の欲することを自らが「問うて聞く」ことは難しいかも知れません。既にテレビや電脳で疑似体験してしまい本物を経験する事無しに分かったつもりになっている事が多いのではないでしょうか。

人は二足歩行を始めた頃から脳の大きさが増し他の動物たちから一歩先んじて生きてきました。言葉や文字を使い情報を効率よく送受信できるようになり現代ではインターネットでその規模は世界に広まりました。その反面状況に応じて自らが何かを感じ、考えて行動していく力が衰えてきたように思われます。

この時期、萩の花がかわいい花を付け、金木犀が香り、深夜にオリオン座の方角から降る流星などが僕らを楽しませてくれます。こんな事からでも季節の動きや地球の自転・公転を自ら感じることが出来ます。秋は落ち葉が舞い物悲しい季節ですがギリシャの哲人ヒポテラクスは落ち葉を見てこのような自然の死をアポプトーシスと名づけたそうです。生物の細胞の中には季節や時期を感じ取り自らが死んでいく遺伝子が組み込まれているそうです。この遺伝子が上手く働かなくなると細胞は増え続け癌化していくそうです。

自然は絶えず僕らにメッセージを送ってくれています。それをどの様に感じ反応していくかは僕らの未来にも関わってくることです。物を作る仕事をしている人間は特に敏感でなくてはなりません。「作家は森羅万象に多情多恨であれ」と言ったのは武田泰淳でしたがこの言葉を何時も心に置きながら仕事を続けていきたいと思います。

笠井正博